不動産Real estate

01.不動産事業のパートナー選びは慎重に

02.設計料無料って、どういうこと?

03.工事費が決まる前に施工者を決めてはいけない

04.適正な工事費を出す方法

05.危険がいっぱい!一括借り上げ制度

06.一括借り上げ、法律が守る相手は、オーナーではなく業者?

07.オーナーが景気変動の調整弁?

 

01.不動産事業のパートナー選びは慎重に

あなたがもし、建物を建てようと思い立った時、誰に(どの会社に)相談しますか?

住宅メーカー
ゼネコン
工務店
等でしょうか?しかし、ちょっと待ってください。そこに相談するのは、後戻りができないアドベンチャーに踏み出すようなものなのかもしれません。

これらの業者は、いづれも、建物を建てることを仕事としている業者です。つまり、工事をすることで利益を得ている業者。ということは、何とか建物を建てさせる方向にあなたを誘導していきます。

始まりは、「設計は無料ですので、気軽に相談して下さい。図面を描くのに測量が必要ですが、測量もサービスします。地盤調査もサービスします。なんなら銀行も紹介しますよ。」と、至れり尽くせりの布陣で、あなた包囲網を作ってきます。そして、賃貸マンション経営であれば、30年一括借り上げで、家賃保証をしますよ。という決め台詞で。断る理由が見いだせないようなセールストークをしてきます。もう、後戻りができないアドベンチャーが始まっています。

02.設計料無料って、どういうこと?

設計が無料というのは、表向き見積書に出ていないだけです。建物と新築したり、大規模な修繕、増築の際には確認申請という申請が必要です。そのためには、図面や、場合によっては構造計算書が必要なわけですから、実際には設計者が図面を書いているのです。測量も地盤調査も同じです。無料と言ってはいますが、見積書に出てないだけで、工事費の中に上乗せされているにすぎません。

設計と一口に言っても、皆さんのイメージする設計とはどういうものでしょうか?平面図を作るのが設計と思っている方が多いと思いますが、それは設計の中のほんの一部に過ぎません。

平面図を作ることは、設計全体で言えば5%の比重もないのではと思います。どのような工法で作ったら良いか、断熱性のこと、高齢化について、コミュニティーとのかかわり、また、将来の維持管理費、その時の各々の建築資材の相場までを考え図面をつくるのが設計です。

例えば、事業物件として集合住宅を建てるとき、通常は、鉄筋コンクリートか鉄骨造で検討しますが、その時の職人の不足具合で、工法が変わってきます。近い例で言えば、東日本大震災で、東北地方に職人が必要になったため、2013年ころの東京では、型枠職人や鉄筋の職人が不足していました。求人倍率が7倍程度と、薬剤師と同じ位高い求人倍率となり、このことが原因で、鉄筋コンクリート造の建設費が、まず高騰。そして、少し遅れて、鉄筋コンクリートの建設費が高騰したことから、鉄骨造での建設が増え、鉄骨造の建設費が高騰したのです。

こういった場合は、一例として、木造で計画を考えことも考えられます。敷地が広ければ、木造の戸建住宅のような建物をいくつも建てることで、集合住宅と同じような収入を得られることが可能になります。木造は、正しく、断熱・気密等の設計を行えば、100年以上も持つ工法ですので、資産価値は十分です。

これが、設計料無料の設計では、鉄骨造が高い時でも鉄骨造で、鉄筋コンクリートが得意なゼネコンであれば鉄筋コンクリート造が高い時でも鉄筋コンクリート造で設計を進めてしまいます。なぜなら、建物を建てることが仕事の会社は、自社の工法で建てることしかできないからです。

このような決まりきった設計は、経済が、一様に成長し続けた社会状況や、変化の少ない社会状況の中では、問題がないのかもしれません。しかし、常に変化し続け、更に成長が見込めない現代においては、常に変わる市場に柔軟に対応する設計が必須となります。施工会社に雇われた設計者が行う設計では柔軟な対応が困難になのではないでしょうか。

設計者は、その時の建築相場を見極め、構造形式と建物の性格に見合った設計を柔軟に行い、最終的に建て主に利益をもたらす提案をする必要があります。その作業には会社の事情で特定の工法で行う設計ではなく、独立した立場で、建て主の利益になる提案をする設計者が必須になるのです。施工会社がサービスで行う無料の設計が、如何に危険であるかお分かりかと思います。

03.工事費が決まる前に施工者を決めてはいけない

測量→地盤調査→設計と進んで、工事費はいくらになるのでしょうか?判断材料になる工事費は、ある程度話が進むまで出てこないでしょう。ある程度話が進んで、工事費が出てきたときには、営業マンをはじめ、司法書士、設計士等の専門家が一丸となってプロジェクトを推進してくれる安心感。そして、今まで受けてきた無料のサービスのことを考え断りきれずに契約してしまいます。

工事費が納得のいく工事費であれば良いでしょう。しかし、その工事が高かった場合、どうすれば良いのでしょうか?

2015年の8月に、ザハ・ハディドの設計で進んでいた新国立競技場の設計が見直しになりました。工事費が当初1350億円で計画していたのが、3000億円にもなることから世論から反発が出て、安倍首相の判断で、取りやめとなりました。

これは、何を意味しているのでしょうか?競技場のデザインの特殊性から、無駄で荒唐無稽な設計のために工事費が高くなったというのがマスコミの論調だったと思います。しかし、これは、発注に関わる仕組みを正しく理解していない一面的な見方です。

新国立競技場騒動の一番の問題点は、工事費が決まる前に施工者が決まっていたという点です。施工者は、スタジアム部分は大成建設。屋根の部分は竹中工務店とが担当すると決まっていました。これは、公共工事においては異例の事です。このことが、このプロジェクトが迷走した一番の理由ではないかと考えます。

何故、工事費が決まる前に施工者が決まってしまったのでしょうか?これだけ大きな競技場の屋根をかけるという工事は、日本では前例のないことなので、もし、工事が出来なければ大変だ。という事から、完成保証をしてくれるゼネコンを決め、その決まったゼネコンが工事費を算出したのです。

このように必ず契約を結んでもらえるという工事の場合、施工者であるゼネコンは欲しいだけの金額を見積もるでしょう。カウンターでお好みで鮨を頼むのを考えるとわかりやすいでしょうか?コハダ、中トロ、ウニ、アマエビ等、値段を聞かずに鮨を握ってもらえば、それなりの金額になるようなものです。

見積というと、全ての建材の単価を積み上げて、膨大な量の内訳書を作るのであたかも客観的で正当なものだと思っているとすれば、それは幻想です。見積書の厚さがどれだけ厚く、鉄筋一本の値段が事細かく書いてあったとしても適正という保証は全くありません。欲しい工事金額に合わせて、見積りの単価を調整すれば、つじつまなんてどうにでも合わせられるのです。

新国立競技場の失敗の原因は、施工者を先に決めたことで、工事費を下げることが出来なくなってしまったことだと、お分かり頂けるでしょうか?こういった、問題の本質に目を向けず、「奇抜な設計」をやり玉に挙げて騒ぎ立てている様は、奇異でなりませんでした。その後のコンペでも結局は大成建設が工事を行うことになったのを見ると、その裏事情をいぶかしく思ってしまいます。

話しは、3000億円の話に大きくなりましたが、3億円でも、3000万円でも同じです。工事費が決まる前に施工者を決めることには危険がいっぱいなのです。場合によっては事業がとん挫してしまいます。とん挫ならまだましですが、高めの工事費が出てきて、その工事費が適正化否かわからないまま、工事が進んでしまい、思うようにキャッシュフローが出ずに事業が破たんし、事業主自身が破たんする可能性さえあるのです。

04.適正な工事費を出す方法

見積をゼネコンが出した費用が適正か?適正ではないか?なんて誰にもわかりません。その見積りを真剣に考えた者だけがわかることです。では、適正な工事費はどのように知ことができるのでしょうか?適正な工事費は、公正な入札(あるいは相見積)をすることでしか知ることができません。

数社から見積をとれば、どこが適正な工事費がわかるので「Aハウス、Bホーム、C建物、D工務店に見積りを取ってみよう。」という方がいますが、このような方法で何社から見積りをとっても適正な工事費がわかりません。比較のための図面はそれぞれの会社が書いているので、前提となる条件が全て違っているからです。

例えば外壁の仕様一つとっても、Aハウスはコンクリート、BホームはALC(エーエルシー)、C建設は窯業系サイディング、というように違っているため、建設費が違うだけではなく、維持管理のメンテナンスの期間も、コストも違ってきます。最初だけ安いが、後々の費用がかかる外壁と、最初は高いが後々の費用は掛からない外壁をどのように比べれば良いのでしょうか?建築には、こういった違いが無数に出てきますので、比較をしようにも比較なんてできないことがわかります。

適正な工事費を知るためには同じ条件で見積りをしてもらい、同じ建て物を作ると工事費がどう違うのかを比較しなければ意味がありません。同じ条件で複数の施工者から見積りを取るためには、独立した立場の設計事務所で図面を作る必要があります。設計事務所のイメージはデザイン性などにばかり注目が集まりますが、設計事務所の重要な役割は、適正な見積りを取るための図面を作るという点が大きな役割なのです。

相見積

入札(相見積)は、適正で魅力的な工事費を引き出す

05.危険がいっぱい!一括借り上げ制度

また、一括借り上げはどうなのでしょうか?賃貸事業では、空室のリスクをなくすことが大切。そのリスクを取り除いてくれる借り上げ保障とは、どういうものなのでしょうか?そんないい話があれば、この低金利時代、最高の投資先に違いありません。しかし、借り上げを保障で満室にするためには周辺の物件よりも数パーセント値引きすることで満室を保ち続けることになります。

さらに、あなたから借り上げて、貸し出すことで保証額として5~15%程度が掛かってきます。

賃貸事業は、家賃の数パーセントの利益を上げるために苦労するものです。その利益になるべき数パーセントの部分を値引きしたり、手数料として手放してしまうということは、利益の出ない事業、場合によってはマイナスになって、給料や年金をつぎ込まなければならないという事まで起こり得ます。ここまで来て、ようやく、アドベンチャーが無謀だったことに気が付いても手遅れでしょう。

では、どうすれば、よいのでしょうか?

それは、自分で事業計画を立て、借り上げ保障ではなく市場の原理で賃料を決めるべきなのです。手助けしてくれるパートナーを選んで、あくまでも主導権をあなたが持ち続けるべきなのです。無駄を省き、建設コストを絞り、シビアに事業計画を立て、完成してから、不動産会社に募集と滞納保障をつけ、客付けをしてもらえばいいのです。

ここで言うパートナーに誰を選ぶのかがポイントです。あなたの立場に立って、工事会社をコントロールし、工事の質を確保するのは設計事務所です。しかし、設計事務所には、事業計画のような不動産分野のノウハウがありません。施主の立場に立つ設計事務所に不動産分野の事業計画のノウハウがあれば、その設計事務所をパートナーに選ぶことで、あなたが主導権を持って、事業の利益をあなたの手元にとどめておくことができるのです。

「建築業界と不動産業界」この近いようで遠い関係、世の中の賃貸事業を難しくしている原因は、この2つの業界の溝を埋めることで取り除くことができるかもしれません。

06.一括借り上げ、法律が守る相手は、オーナーではなく業者?

一括借り上げ制度のリスクは、いくつかあります。

■家賃保証と言いながら家賃の見直しを求められるリスク

建物が出来て2年位は、満室状態が続くでしょうが、再契約の頃に周りに競合物件が出来てくると、新築時と同じ家賃では満室状態を維持できなくなってきます。そうすると、業者は満室にするために家賃の値下げを迫ってきます。

一括借り上げ(サブリースと言われることもあります)は、借地借家法32条1項では、オーナー(貸主)が業者(転貸人)に貸しているわけですから、普通建物賃貸借契約である限り「賃料減額請求が可能」となります(最高裁判決)。このことは、日本不動産仲裁機構解説に詳しいです。

借地借家法は立場上弱い賃借人を守るための法律です。しかし、一括借り上げ制度を利用し、オーナーが業者に建物を貸す場合は、オーナー側が弱い立場だとしても、建物を借りている業者側を保護することになっています。本来は、資産を持っているオーナーが強いはずなのですが、このような法律を理解してリスクを取り除いている業者の方が強い立場になっているのが現実です。会社経営上はリスクをヘッジ(取り除いて)して経営の安定を図っているという事になりますが、個人のオーナー側からすれば、知恵を持っている業者が、オーナーの資産を搾取しているようにすら見えます。

このような逆転現象を回避するには、オーナーと業者は定期借家契約を結ぶという方法が有効となります。定期借家契約であれば、契約期間中は解約できなくなります。もちろん、業者からは定期借家の提案は出てこないと思いますので、オーナーの方から求めることになります。ただ、自分に不利な定期借家契約を受託する業者は、なかなかいないとは思いますが。

■免責期間に家賃が入って来ないリスク

免責期間は、大家さんに家賃が入りません。免責期間が60日だったとすれば、2か月分の家賃分は業者のもうけになります。この免責期間が、新築時だけの場合と入れ替え時にも適用される場合があります。

■修繕費用が高額になるリスク

建物が出来てから、10年程度経過すると、アチコチに不具合が出てきます。特に、給湯器、エアコン等の設備系の不具合が多いと思いますが、外壁のシール、屋根の防水等の補修も必要になってきます。この際、物件をハウスメーカーで建てていた場合、自社による補修工事でなければ、一括借り上げの契約を継続しないということを言ってきます。

これは、ハウスメーカー等の業者に依頼する際のとても大きなデメリットとなります。商売は、売り切りではなく、継続したサービスを提供し続けることが、業者側の経営の安定につながります。逆に言うと、特定の業者にメンテナンスを特定されることは、競争の原理が働かず、高いメンテナンスに対してお金を払い続けなければならないことになるので、オーナーにとっては痛手となります。

昨年(2015年)、某ハウスメーカーの建物の改修をする際に、メーカーの見積が500万円もかかるため、工務店3社に相見積をしたところ、280万円で改修が可能になりました。

また、ハウスメーカーの建物の場合注意しなければならないのが、独自の認定を取っていることです。これは、建築は通常建築基準法に規定した基準で建てるのですが、ハウスメーカーの場合は、独自の構造で建てることから、その構造形式で建てることで、確認申請では審査を一部しなくても建てることができるのです。一見すぐれているように思えるこういった認定を取った物件ですが、認定以外の建て物は認められないため、認定の製品が製造中止になれば、もうパーツが無いため、改修は困難になります。また、認定自体が、取り消しになることもあり、そういった場合の改修は困難になります。ハウスメーカーの建物を使い続けることは、こんなことの繰り返しです。つまり、一社独自の基準で作った汎用性のない建物なのです。

「業者指定の修繕をしなければ、家賃保証はしない」とか、「修繕は、自社の修繕でなければ家賃保証をしない」とか、オーナーの足元を見るような要求が続くことになります。オーナーは、思うような家賃収入が得られなくなっても、更に理不尽な出費を求められることになる可能性があるのです。気をつけたいものです。

07.オーナーが景気変動の調整弁?

景気が悪く、経済が停滞しているとき、金利が安くなるります。そうすると、資金調達が容易になり不動産投資がしやすくなり、賃貸住宅の建設が活発になってきます。

しかし、不動産の賃貸事業は、とても期間の長い事業です。その息の長い事業の最大のリスクとして空室リスクがあります。思う通りの入居者がなくて、家賃を下げていくと当初の事業計画通りにキャッシュが出てこなくて、毎月の返済ができなくなり、折角建てた物件を土地も含めて手放さなければならなくなってしまします。

売却するときには、買いたたかれ、築年数が浅いにも関わらず思ったような値段にはならないものです。しかも、土地を持っていた場合、所得税の負担も生じることから、元々持っていた土地を手放し、思ったほどの現金も残らなかったということになってしまうのです。

つまり、オーナーは、不景気の時に建設業界を潤し、銀行から借金をし、市場の血液である現金を流通させた功労者であるにも関わらず、その成果を受けるばかりか、元手となる土地までも手放すのです。

これは、個人が持つ土地という資産を社会の経済の循環に提供したということなのではないでしょうか?オーナーにとっては不名誉で、腹立たしいことではありますが、景気の調整弁となっているのです。

どうして、こんなことになってしまうのでしょうか?

当初の事業計画において満室状態を前提に投資利回りを考えて投資した場合、空室になることで、計画通りの収入が出なくなり、利回りが低下し、建設時に受けた融資の金利を下回ってしまいます。

投資利回りが、資金調達の金利を下回るということは、マイナスになった金利分のために自分の資金を充当するということです。せっかく苦労をして事業を始めておきながら却ってお金が減っていくのです。こんな理不尽なことがあり得るでしょうか?信じたくはないですが、ホントにあるのです。

自分の資金を充当するのに、バイトを始めたオーナーもいます。笑い話のようですが、不動産投資の負の側面です。他の投資であれば、具合が悪くなれば売却すれば済みますが、不動産の場合はそう簡単に売却というわけにはいきません。

08.空室リスクを回避する不動産投資

「建設→空室発生→採算割れ→物件売却」というプロセスが

景気変動の調整弁というと聞こえはいいですが、オーナーの資産の滅失にほかなりません。

  1. 建物を建てて(初年度)
  2. 管理して(毎年)
  3. 古くなればリフォームし(設備は10年程度から更新)
  4. バリューアップします(25年目位から大規模リフォーム)

等、他の投資ではありえないほど手をかけていかなければ魅力的な物件として維持できません。

 

かなや設計 環境建築家 金谷直政