ボロアパート再生Old apartment reborn

築40年の木造賃貸住宅、高度経済成長期に建った建物です。オーナーはサラリーマン。立地は北海道の北見。人口約12万人のオホーツク地域最大の都市です。日本の地方が抱える少子高齢化に伴う人口減少と高ほい高齢者率という課題を持つ地方都市です。

人口減少は、貸し家を持つオーナーにとっては、マイナス要因となります。この物件も6戸の内、入居者は1戸のみ、しかも3万5千円の家賃を2年前から滞納。もはや、賃貸事業とは名ばかりで負の遺産でしかない状態でした。古家でも都市計画税、固定資産税を取られていることを考えれば、持っていても損するばかりの疫病神のような物件でした。

■古家は、売却か?建て替えか?リフォームか?

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オーナーご主人は、長期療養をしており、そのための入院費用の確保のため売却を考えていたが、地方都市の不動産価格は驚くほど安い。土地の価格は7万円/坪程度。しかも、これでも40年前に比べ値上がりしていることから売却すると税金が取られ、古家の解体費用分の負担も考えると手元に残るお金は意外と少ないことがわかりました。

そこで、賃貸住宅としての魅力を再生し、利益を生む物件として家賃収入を得る方向で検討することにしました。ご主人の療養費の足しに5万円/月の収入が得られることを目指して事業計画を作り始めました。

A案:建て替え 12戸、10戸、8戸

B案:リフォーム 6戸+新築2戸

C案:リフォーム 6戸

地方都市においては、高齢者が増えているが、高齢者が安心して暮らせるバリアフリー住宅が無いことから、高齢者住宅として建て替える案を重点的に検討しました。

■民間の資産を国が補助!長期優良住宅化リフォーム推進事業

検討を進める中で、国交省がの「長期優良住宅化リフォーム推進事業」が、1戸あたり100万円だったのが、条件を満たせば200万円を出すことになりました。調べると、今回の物件でも使えることがわかり、計画は、C案の既存の6戸をリフォームすることになりました。

そのかわり、この1戸あたり200万円の補助金が出る制度、リフォームのグレードがとても高い。「劣化対策」「耐震」「維持管理のしやすさ」「省エネ」「高齢者対策」「可変性」「住戸面積」等のグレードが、新築の長期優良化住宅と同等のレベルが求められます。

kison_hibi基礎のひび割れ

築40年の建物とは、どういうものなのでしょうか?

数ある建築基準法の改正の中でも1981年(昭和56年)の改正は、構造基準の大きな改正がありました。それまでの木造住宅では、基礎に鉄筋を入れなくてよかったので、この築40年の建物の基礎にも鉄筋は入っていませんでした。現地で調査すると、ところどころ、基礎に元気な(笑)ヒビが入っていました。

■オーナーの費用負担を抑えて、最低の性能から最高の性能へ

新築の優良長期優良住宅はの割合は、2009年に制度がスタートし、普及の割合は、新築一戸建て(分譲、持家、貸家、供給住宅を含む)の23~24%。注文住宅に限れば70.7%(2013年度)で、2014年6月末時点で50万戸を超えた状態となっています。

劣化対策等級でいえば等級3(最高等級)相当なので、数世代持つ家ということになります。国交省では「構造躯体の仕様継続期間が少なくとも100年程度」と言っています。
これは、現在考えられる最高水準の住宅性能と言えるのではないでしょうか?

賃貸住宅では、事業性を上げるために、断熱材を薄くしたり、メンテナンスのことを考えずに工事費を安くするために配管工事をしたり、外装材も考えるられる最低価格の材料を選らぶのに比べると、通常の賃貸住宅とは雲泥の差と言っても良い性能です。

言いかたを変えれば、高度経済成長の頃に建った質の低い建物を最高の性能にするための費用を国が出してくれる。と言ってもいいかもしれません。

北見美芳町_性能等級

レーダーチャートにすると、青い部分が当初の性能で、赤い部分がリフォーム後の性能です。その間にある黒い部分が標準的な住宅ですから、その激変ぶりがわかるのではないでしょうか?

■最新の省エネ技術「地中熱利用」

今回のリフォームでは、更にグレードUPしている部分があります。それは、冷暖房に地中熱を利用したことです。地中熱は、他の自然エネルギーに比べ、日本中どこでも安定的に利用できる唯一の自然エネルギーです。

暖房の省エネルギー技術としてはヒートポンプというものを使うことが一般的ですが、北海道の北見は冬の気温が低すぎるために暖房時にヒートポンプの効率が下がってしますのです。地中熱によるヒートポンプは外気ではなく地中と熱交換を行うので、暖房時の効率低下を補ってくれる最高の省エネ技術なのです。ただ、問題は、コストが高いということ、通常地中熱を採熱する孔を一本掘るだけで100万円~300万円かかると言われています。それを、注文住宅ではなく民間の賃貸住宅に付けるなんて聞いたことは有りません。たぶん北海道は、ここが初めての試みです。(喜茂別の村営住宅で事例があり)

c-tou_tityuunetu 正面が地中熱、右側が通常のヒートポンプ(三菱電機ズバ暖)

全ての住戸に付けたわけではありませんが、どうして賃貸住宅にこのような高性能な設備をつけることができたのでしょうか?これも国の補助金制度を使って設置が可能になりました。こまめに探すと、国のいろいろな補助制度があります。国の補助金については、別の機会に詳しく書きたいと思います。

■事業を成功に導く設計事務所の役割

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ポイントカラーを配した明るい外観

今回の工事会社は、地元北見の工務店でした。敷地からも車で5分程度なので、後々のメンテナンスのことも考えると最良の工務店だったと思います。しかし、その工務店が施工すると最初から決めていたわけではなく、数社の中から選定した結果そうなったのです。工務店の選定に関しては、相見積方式としました。工務店5社程度と面談をし、それぞれの工務店に同じ図面を渡して、同じ条件で見積りを出してもらいました。

その結果、2社は辞退し、3社が見積りを出してくれました。
「相見積になりますが、見積りをして頂けますか?」と聞くと2社は、「相見積であれば対応できない」と言って断ってきました。価格競争には加わりたくないということなのかもしれません。その気持ちはわかりますが、値段の高い物が必ずしも良いとも限りません。このことは、別の機会に書きたいと思います。

A社、70,620千円(消費税別)

かなや設計 環境建築家 金谷直政