下町の二世帯町工場とBCP対策

敷地は、東京の伝統的な下町地区墨田区北部。昭和の頃は、ものづくりの町として数千の事業所が町中に建っていた地域です

創業者夫婦と、その息子夫婦で営んでいる金属金型の工場の建て替えです。創業時から使っている建物は築50年を超える木造でした。

正面入口は、高さ3.2mの扉
外観 夜景

まずは、ライフプランの作成から始めました

町工場の建て替え時に考えるのは、何でしょうか?普通は、現在ある工場と同じ広さの工場スペースと二世帯それぞれの住宅の広さを確保した面積の建物の工事費を概算で算出し、その資金確保のため融資の相談を金融機関とすることでしょうか。

しかし、町工場の場合、事業と経営者の生活は深く結びつきあっています。工場の建て替えのために生じる返済金に利益を充てるために、給与を減らすことで、子供の学費が足りなくなるなんてことも起こりえます。

本計画では、経営者のライフプランをファイナンシャルプランナーが作り、工場の建て替えにかけられる金額を算出。その金額に合わせて建物の設計を進めました。言ってみれば、通常とは逆の方法で設計しています。

1階工場 柱のない空間 天井高さ3.2m

逆読みの工事費決定

通常だと、必要な広さの建物を計画し、その結果として工事費が決まりますが、今回は、ライフプランから考えて返却可能な金額に合わせて建物の計画をしています。

だからといって必要な広さが確保できないなんて事はありません。将来のライフプランの変化と、工事費の返済計画の間で調整をすることになります。

例えば、

今は、同居している子供部屋を、ちょっとした改修で、貸室にすることで家賃収入を得るとか、

同居の親世帯の住戸を将来、そのまま賃貸住宅として貸すことで家賃収入を得る。

等のことが可能です。こういったライフプランに対応する建物を設計しておけば、事業の継続、発展、承継が可能になってきます。

子世帯のLDK 右の小上がりと一体に利用
子世帯のLDK 小上がりと障子で仕切って利用

making

今回の工事で一番苦労したのは、施工者対応でした。最初に建物にかけられる費用を算出し、その範囲に収めるよう工事業者の選定をしたのですが、あるリスクがあります。

通常は、何度か施工をお願いした業者に相見積もりをお願いし、その中で安い業者に工事を発注しますが、今回は、もう一歩踏み込んで、安さ優先で業者を選定しました。

まずは、解体業者ですが、3社に見積をお願いし、一社は412万円、一社は245万円、もう一社は228万円でした。今回は、全体の工事費を極力抑える方針なので、当然228万円のところにお願いしましたが、ここが結構曲者でした。

お願いするときに気になったのが、社長が外国人、中東からの難民とのことでしだ。難民ということで苦労しているということで、むしろ、一生懸命に日本に溶け込もうとしている姿勢に好感をいだき、お願いしたのです。

ところが、実際に解体工事が始まってみると、基礎のコンクリートが想定以上なので、追加の工事費をもらいたいとゴネ始めました。これには正直、困惑しました。解体工事は、施主からの直接発注で契約してもらっているので、設計事務所の管理業務ではないのですが、自分の物件で起きている理不尽なトラブルを見過ごすわけにもいきません。

「この基礎は、通常の基礎に比べ特段頑丈なものではなく通常の解体工事の範囲内ですよね。」と元難民の外人に伝えるのですが、大きな声でまくしたて「建築士は信用できない!」などと言って、一向に納得しようとしないのです。でも、どんなにわめこうが、騒ごうが「駄目なものはダメ」と繰り返し伝えることで、最後には納得していましたが、これが、彼の手口なのかとも思ってしまいました。

日本では、下請けの業者や職人もこれほど激しく主張してくることは滅多にありませんが、外国の方は、無理なこともまず主張し、拒否されれば従う。という姿勢なのでしょうか?

建築の現場も、海外からの人材が多くなってきているので、こういった激しい主張に対しても「ダメなものはダメ!」とはっきり、きっぱりと伝えていかなければならないのでしょうね。

次に苦労したのは、鉄骨の業者です。この業者は新潟に本社がある業者ですが、建築全体の元受け業者の下請けの業者になります。そして実際の政策は更に下請けの福島の鉄工所でした。

この新潟の業者はホントひどかった!鉄骨の製作図をチェックして返しても、チェックした通りに訂正されない。トータルで8回も製作図をチェックしました。もう、自分で製作図を書いた方が早いくらいです。

鉄骨の工場検査に行くと、全ての部材がすべて揃っているはずが、長さを切りそろえた柱があるだけ。「製品はどこにあるんだ?」と聞いても、要領の得ない返答で、まったくらちがあきません。

こんなチグハグナことになった原因は、鉄骨の下請けなどやったことがないビルのメンテナンス会社が、わずかに経験のある人間を雇って、発注を任せたり、図面を外注に書かせたりしていたからでした。

実際に鉄骨を作る鉄工所と元受けの間に、現場を理解しない者が入り、情報が正しく伝わらないばかりか間違った訂正指示を出し、製作図の精度が下がるのである。延々と続く空しい伝言ゲーム。製造の両端が熟達していてもその中間に未経験者が入ってることの悲劇です。

程度は違うが、最近こういうことが多い。仕事が細分化され定型的なことであれば、マニュアル通りにやれば何とかこなせるるが、それらが複合化され、様々なものとのつながりが出てくるようなことに対して、全く応用が利かないようです。

対応する人間の能力が下がっているのか? 社会が複雑になっているのか? わかりませんが、一人ひとりの守備範囲が狭くなってきていると感じます。設計図面を理解し、製作図を作る人、製品を作る人との間をつなぐ接着部分をしっかり調整できる能力に欠けているのでしょうね。

ガッカリした製品検査(福島)
レベルに達した製品検査(福島)

かなや設計 環境建築家 金谷直政